国はひとつなれど

土曜日の午前中は街が最もにぎわう時間帯。

街中を見渡せば、チリチリアフロヘアーのおばちゃんが芋を売り、

観光中かと思われる白人がもの珍しそうに手作りの土産物を手に取り、

セール中の衣料品店内にはかの国の衣装を着たマネキンが展示され、

レストランではアジア人がでっかい鉄鍋をふるっている。

 

ここは多民族国家の国だ。

様々な人種がそれぞれの暮らしを営み、共存するところ。

中でもこの国の人口を大きく占めているのはある2つの民族

1つは昔からこの地に住む先住民族

1つは他の国の植民地であった時期に強制的に連れてこられた移住民族

少し前までは、この2つの民族の人口は拮抗していたのだが、

今は先住民族が半数以上を占め、移住民族は減りつつあるのだという。

 

この2つの民族は真逆と言っていいほど性質が違う

 

先住民族の特徴は、穏やかでルーズで小学生レベルの冗談で笑い転げるほど無邪気。

計画性がなく、なんでもシェアをする。

争いごとを嫌い、あまり意見や自分の考えを言いたがらない。

体は縦にも横にも大きく、運動神経がいい。

 

対して移住民族は、きっちりしていて意見や要求をはっきりと言う。

商才に長け、服でも家でも外観の良さを大事にする。

愛想はあまりいいとは言えないが、家族でも友人でも、自分の身内を大事にする。

女性も男性も若い人はスリムで手足が長いが、

年齢を重ねると細いままの人と太る人にわかれる。

 

ざっと挙げるとこんなところか。

加えて、言語も宗教も食文化もなにもかもに共通点が見当たらない

 

そして…

彼らの関係はあまりよくない。

昔に比べれば緩和しているものの、彼らはお互いにその存在を疎んでいる。

別に誰もはっきりとそういうことを口には出さない。

しかし、職場で、街で、学校で、

あらゆる場面で彼らの間にがあることを感じさせられる。

 

この国の法律は、改定がかなり進んでいるとはいえ、

まだまだ先住民を優遇したものになっている。

土地は全て先住民に所有権があるから、

彼ら(移住民)は先住民から土地を借りて商売をして生活をするしかない。

 

先住民たちは移住民は本国へ帰るべきだと考えている。

移住民の方もおそらくそうしたいと思っている。が、できないのだ。

長年この地にいたせいで、本国とも民族性が変わってしまっており、

きっと帰ったところで居場所はないだろう。

 

無理やり連れてこられた移住民たちに対し、先住民は国に帰れという。

土地も与えられず、

店を経営するときは必ず先住民を雇うことを条件付けられている(らしい)。

 

一方で、移住民の特有ともいえるその強い性格は先住民の和を乱す。

のんびりとしていた街は商店であふれかえり、

南国の雰囲気にそぐわないギラギラした装飾の看板が立ち並ぶ。

余所の土地で生き抜くため、彼らは何よりも金銭の損得を優先し、ぎすぎすとした雰囲気をつくり出す。 

 

どちらが悪いわけでもない。

どちらも被害者だ。

 

文頭で、現在では移住民族の数が減りつつあると述べた。

これは、もともと商才のある移住民族の勢力が経済発展を武器に徐々に強くなり、

その力がそれまで先住民が握っていた政権にも及び始め、

自分たちの国が乗っ取られると恐れた先住民がクーデターを起こしたことが主な原因である。

最後に起きたクーデターは十年も経たない前の出来事だ。

 

歴史的背景や社会情勢うんぬんは考え出すとまとまらないし、切りがない。

何より、話の方向性が暗くなるばかりだ。

しかし一方で、当たり前のことではあるが、

過去の辛い時代やよくない出来事は、

この国独特の文化や雰囲気、面白さを作り上げている要素でもある。

 

場所によって、

民族の割合が、聞こえてくる言語が、町並みが、BGMが、スーパーの品ぞろえが…変わる。

山奥へ行けば、昔ながらの生活を送る先住民が伝統的な儀式で客人を迎え入れ、

移住民ばかりで構成された地域では、まるで彼らの本国へ迷い込んだかのような錯覚を覚える。

 

両民族のぶつかり合いが今も続くのは、それぞれが自分達に誇りを持っているからであり、

そんな状況だからこそ、

異民族カップルを見ると、なぜか心の中で応援してしまうし、

移住民の伝統衣装を着た先住民のおばちゃんが「似合う?」と話しかけてくれば、

渾身のグッドサインをしてしまうし、

移住民が先住民の伝統的な儀式で飲まれる嗜好品を自分達の文化だと言い張れば、

思わず微笑んで頷いてしまうのだ。

 

ある2つのモノが別々の軌道に乗って動いているとして、

その軌道上に接点はなく、それらは一生出会うことはない。

…はずだったが、外部からの圧力で軌道が変わり、ある時点でそれらは衝突してしまう。

それらを待ち受ける運命は融合か、消滅か。

 

たぶん、ここはそんな国だ。

 

衝突した2つの文化は、一部は融合し、一部は衝撃で飛び散った。

融合した塊は不均一で不均衡で、でも決して再び離れることはなく。

融合にともなって、消滅した部分もあるだろう。

だけど、きっとどこかで、

飛び散った小さな破片達が消えることなく、細々と本来の姿も残しているのだ。

 

ちなみに…

融合した塊の中心部に位置するものは、個人的には食文化だと思っている。

美味しいもの楽しいことに対して人は皆、寛容である。

 

今日も小腹を空かせた先住民たちがその大きい体を揺らし、

移住民店主のかまえる売店で揚げ菓子を買い求めている。